Vol 28. 社員がハネるとき、社長がハゲるとき

Vol 28. 社員がハネるとき、社長がハゲるとき

会社経営をやっていて一番嬉しい瞬間は、社員の飛躍的な成長を目の当たりにした時だ。
僕はこの現象を「ハネる」と呼んでいる。
この1年はXXくんハネたな~~、と言いながら幹部メンバーと酒飲むのが至福の時だ。

当社は、今もこれまでのメンバーも、個性的な人間が多い。
たまには個性がぶつかり合って、喧嘩になることもある。
でも、総じて前向きで、チャレンジ精神が旺盛だ。

チャレンジ精神があれば、いつかはハネるチャンスに巡り合える。
まだハネ切れてないメンバーもいるが、若い時期だけの特権でもない。40越えてからハネるケースだって勿論ある。一度のみならず、二度、三度とハネる人もいて、その自信に満ちた表情を見るのは、会社経営冥利に尽きる。

ハネる瞬間は、業務にこなれて真価を発揮するときにも起こるが、逆境を乗り越えたときに起きやすい。全幅の信頼を置いていたキーパーソンがいなくなった、任されてマネージャーになった瞬間部下がみんな辞めてしまった、取り返しがつかない程のトラブルが発生してしまった、、、など。

社長がハゲるほどピンチなときが、誰かがハネるフラグが立つ。

 

サラリーマン新人時代

自分の最初のキャリアは、学生時代に働いていた会社に就職したこともあり、共同創業者の副社長の隣で、割と重要な任務からスタートした。具体的には、お客様への請求計算などがメインだったが、スピード感爆速のスタートアップ期だったので、毎月のように新サービスが始まり、追い付くのが精いっぱいだった。顧客数も20万人を超えていたので、とても骨の折れる業務だった。

隣で働いていたナンバー2は、今まで見てきた人の中でトップレベルの地アタマの良い人間だった。社長の思い付きレベルのアイディアでも、すぐに具現化して、運用に落とし込んで、システム構築して、良い感じでサービスインさせる天才的な方だった。かなりリスペクトしていたし、その人と働くのが、その会社で働きたい大きな理由の1つでもあった。

なんでこんなスピード感で仕事ができるんだろう、どういう思考方法で仕事をこなしているのだろう、どこから最初に手を付けるんだろう、どうやってこのセンスを磨いているんだろう、と隣の天才を研究し続けていた。研究して分かったことだが、仕事は丁寧で天才的なのだが、意外とプライベートはだらしなそうだな、ということ。ま、そんなことはどうでも良かった。

 

サラリーマン時代最初の逆境

実は、このナンバー2の天才と仕事できたのは1年も無かった。
入社して9ヶ月ほどが過ぎた頃にスキャンダルが発覚して、急遽、そのナンバー2が退職することになってしまったのだ。だらしない悪い部分が露呈してしまった訳だが、人間誰しも間違いは犯すものだしね、、、なんて言える余裕は無かった。というか、結構恨んだ。

隣にいながら、毎日、スキルや考え方の全部を盗もうと研究していたものの、業務の引継ぎを受けたことが一度も無く、急にナンバー2の仕事を任されることになってしまった。スタートアップあるあるかも知れないが、「オマエ近くにいたんだから大体分かるだろ。」的なノリだった。

全容が見えている訳では無く、業務フローすら分からない。ボタンがあっても内部仕様が分からないから、イレギュラーや追加要件に対応できない。プログラミングコードの解読から入り、サービス内容から逆引きしてオレならこう作るかな、みたいなアタリを付けて答え合わせしながらリバースエンジニアリングしたりと、、、とにかく気の遠くなる解読作業が続いた。毎月の請求業務は待ってくれないので、世界中のキャリアから届く形もバラバラな通話記録を収集し、ジェネレーションして、料金計算して、、、を解読しながらぶっつけ本番という恐ろしい状況だった。

そして、たくさん失敗を犯した。

お客様にも、同僚の皆にもかなりの迷惑をかけてしまった。ナンバー2退社直後の月には、5000件ほど誤請求を出してしまった。発覚した日の夜、謝罪文を印刷して当日中に社員全員で三つ折りして、糊付けして、封書5000通を夜中に郵便局に持ち込む、、、、そして翌日、全社員総動員でご迷惑をお掛けした全顧客に電話謝罪対応、、、という状況を作ってしまった。

そして、実にこれが数か月間にも及んだ。

社長からは、早くしろ、未だ出来てないのか、なんでまた間違えるんだ、、、と罵倒の日々。本当に地獄だった。毎月、胃腸を壊していたし、0時前に家に帰れたことは無く、会社で寝落ちが日常だった。

23歳の頃の話だ。

 

圧倒的な原体験

これでもサラッと書いた方で詳細は書ききれないので割愛するが、この時期はガムシャラで何とか形にしようと、もがき苦しんだ。何より、自分がここで逃げてしまったら、毎月の請求書が出せない、売上が立たない、この会社終わる、と思っていたのもあり、20代前半のチンケな責任感で何とか生き繋いでいた感じだ。

この圧倒的な苦労体験は、その後20年近く経っている今でも生きている。
あれより辛い経験は多分、ビジネス上では起きえないと思う。経営していて難しい事、辛い事、厳しい事、ハゲそうな事、沢山あるけど正直23歳~25歳で経験した以上の苦痛は無い。むしろ、全てのハードシップが楽しめる域にある。

そして、今ではそのような機会を与えてくれた前職の社長には感謝している。
よく新卒に毛が生えた程度の人間に、あんな大事な仕事任せてくれたな、と。
というか、よくあの状況で、ハゲずに髪フサフサでいれたな、と。

あの時があって今の自分がある。無理が効く20代前半にあの経験が出来て良かったな、と振り返る。自分が一番ハネたと感じたのは、後にも先にも、その入社1~2年目の時期だった。

 

最後に

自分と同じ経験をして欲しいか、と言われると正直させたくない。
でも、ピンチや逆境に出会ったら、飛躍的な成長できる「ハネる」為のオイシイ試練が来た、と捉えて頑張って乗り越えて欲しい。自分の立場では、メンバーに対して、あと少し頑張って乗り越えればハネるのに、、、とあえて手を差し伸べなかったことを後悔することもある。こればっかりは正解は分からないけど、圧倒的な苦労体験は自信に繋がり、その後に起こりうる苦難の対処に必ず役に立つはずだ。

僕の髪があるうちに、メンバー全員には何度もハネてもらいたいな。
その期限は差し迫ってるかも知れないが・・・。

 

関連する記事

Go to top